周囲の人から直接聞かれる点や, あるいはサーチエンジン経由でよく検索されているキーワードなどについて, 分かる範囲で書いてみます. 間違いがありましたが,ご指摘頂けますとありがたいです.
サーチエンジンで,これを検索して来る方が大変多いようです.
ある時点から学位規則が変わって, それ以前は「○○博士」, それ以降は「博士(○○)」などと呼ぶように変わった, というのはよく知られているわけですが, どういう経緯でそうなったかとかは, (少なくとも私には)わりと謎でした.
というわけで,調べてみました.
学位規則の改正は平成3年6月24日で,施行は同年7月1日 ( http://www.niad.ac.jp/sub_press/decade/12.pdf の pp.19-21). なので,平成3年 (1991年) 7月以降の学位が,新しい形式になっているはずです.
それまでは, 理学博士とか工学博士とかいう種類が学位規則で定められていて, そこから選ばなくてはなりませんでした. これが改められ, 学位の名称は単に「博士」になって, それに(各大学等がある程度自由に決められる)専攻分野を 「付記する」ことになりました.
これは,平成3年2月の大学審議会の答申 「学位制度の見直し及び大学院の評価について」がベースになっているようです. 答申の内容はウェブでは見つかりませんでしたが, 当時の国会の文教委員会の記録に,関連した議論の様子が残っています (第120回国会 文教委員会 第4号 平成3年3月26日のずっと後ろの方).
というわけで, 学位の授与を活発化しようというのが改正の基本的な動機だったようで, 中でも文学博士や法学博士が取得しにくいこと, 特に,留学生が取得しにくい点が国際的にいろいろと問題であることなどが, 大きな要因になっていたようです.
要するに, 十分な業績を認定する意味を(分野によっては)持つ 「○○博士」とは違う新しい制度として, これから研究者としてやってけるだろうという認定の意味を持つ 「博士 (○○)」という新しい学位を与えることになりました. だから先生方.そういう視点で学位を出してやって下さい, って感じなんですかね.
さて, では実際にはどんな専攻分野名がつけられているのでしょう? 平成12年度のリストがここにあります. 博士だけで 216 種類もあるらしい.すげー.
これもサーチエンジン経由で問い合わせが多いです. 「博士 Ph.D. 違い」とか「学位の種類 Ph.D.」など.
前の質問とも関係するのですが, 「工学博士」の場合は英語名は Doctor of Engineering (Dr.Eng. とか略すらしい) で, 「博士(工学)」の場合は英語名は Ph.D. (Philosophiae Doctor / Doctor of Philosophy の略らしい) になる, という話をまことしやかに聞いたことがあります. 曰く, 平成3年の学位規則改正後の学位名称はあくまで「博士」なので, 分野名に関係なく同じ名前が使われる「Ph.D.」に相当する, とよく聞きます.
ちなみに私の場合, 名刺の表裏がそれぞれ日本語・英語になっているのですが, 表面には「博士(工学)」, 裏面には「Ph.D.」と刷っています. これは単に,周囲にそう書いている人が多かったからです.
というわけで改めて調べてみたのですが, 「博士(○○)だから Ph.D. になる」という話の根拠は見つかりませんでした.
学位の英語名に関する文献として,以下のようなものがあります. 大学評価・学位授与機構の紀要です.
この文献では, 大学ごとに学位をどんな英語表記としているかを調査しています (平成10年度のデータ). どの大学がどうかってのは書いてませんが,統計が載っています. 国公立大の工学系の場合,
Doctor of {E,e}ngineering | 50 |
Doctor of Philosophy | 2 |
Doctor of Philosophy (Engineering) | 2 |
Doctor of Philosophy in Engineering | 4 |
Ph.D (Engineering) | 1 |
って感じです. Doctor of Engineering 系 : Ph.D.系 が 5:1 くらいの比率になります. ちなみに私大の場合もほとんど同様の比率です. 未定・無回答は 3 だから,ほとんどの大学が何らかの回答をしている模様.
これから分かることは,
東大の場合はどうなんでしょう? 特に規定らしきものは見つかりませんでした. ちなみに, 英文の学位授与証明書の申請用紙を, 博士課程の修了手続の際にもらったのですが, そこには, Doctor of Engineering か Ph.D. かを選択するチェックボックスがありました. これって,場合によって都合のよい方をもらえるってことですかね? それとも, 自分がどっちに該当するか自己申告しろっていうことなんですかね? 誰か事情を知っている方がいたら教えて下さい.
東大の場合に関して情報を頂いたので追記します. 「ADMISSION INFORMATION FOR INTERNATIONAL STUDENTS, 留学生のための入学案内, 2004」 なる資料があって, 留学生用に各学部や研究科等の情報がまとめられています. そしてその情報の中に,学位の名称の記載があります.
ここに書いてる情報がどの程度オフィシャルなものかは謎ですが, 一応まとめてみると,
上から順に人文社会系までは「Doctor of ほげ」とされています. 教育学以降は Ph.D. とされています. で,その間に入れた工学系はやややこしいことになっていて, Doctor of Engineering と Ph.D. の両方が書かれています. やっぱり好きな方を選べるんだろうか.謎過ぎる.
おおまかな傾向として, 旧来からある名称の研究科は Doctor of ... としていて, 新しい研究科は Ph.D. としているようです (必ずそうだとは言えませんが). これって要は, 古いところが規定を変えてない(そもそも議論されてない?)だけのような気が するぞ.医学系なんて「Doctor」だけだし.やる気なさすぎ.
せっかくなので,他の 2 つの例を挙げて工学系の混乱ぶりを示しておきます.
先程の留学生向け資料では,工学系の学位取得者数として, 「The number of students who obtained a degree in 2002: Master of Engineering (752 students), Doctor of Engineering (264 students)」 という記載があります. どうやら全員 Doctor of Engineering として数えられているようです. つーか,2002 年度って私が修了した年度なんですけど.
もう一つ,ついでに発見した情報です. 工学系のサイトに, 研究紹介 - 統計 - 博士学位授与数なるページがあります. このページの 日本語版と 英語版を照らし合わせると, 「工学博士」→「Doctor of engineering」, 「博士(工学)」→「Doctor (engineering)」, 「博士(学術)」→「Doctor (others)」 なる訳が当てられているようです. いや Doctor (engineering) って一体…. さらに Doctor (others) ってあんた….
製本したことないので分かりません.
って話を他の大学出身の人とかにすると,大変驚かれます. 学内の人も驚くのかも知れない.
通常,製本した D論は,
などの使い方をされるようです. 1. については,東大工学系では印刷したものを期限までに提出すれば, 研究科で一括して製本してくれます.なので不要でした.
2. 3. については,うちの研究室にはそーいう慣習がありません. 本当は,副査の先生にくらいはお渡しするのが礼儀なんでしょうかね. ていうか,そもそもお礼の挨拶すらしてません.いいのだろうか. まあ,私の D 論なんてもらった方も邪魔なだけだろうから, 礼儀の問題はさておいて,実務上は最適解だと思う.
やだ.
これは,直接質問されることも多いし,検索されることも多いようです. 一応,私の理解の範囲で書きますが, よく分かってないので,嘘を書いてるかも知れません. あまり信じないで下さい.
すごく大雑把に言うと 「学振からもらうお金のうち(最大) 3 割を非課税にする」ということです.
学振から振り込まれる「研究奨励金」は, 税法上は「給与収入」になります. だから,所得税が源泉徴収されていますし, 確定申告する場合は,給与収入にカウントすることになります.
ただし採用手続の際に 「研究奨励金のうち 3 割を研究遂行経費として扱う」 ことを選択することができます. この場合,実際に振り込まれる額に変化はありませんが, 源泉徴収票に書かれる金額が全体の 7 割に減額されます.
つまりこの手続きをすると, 研究奨励金のうち 7 割は給与収入として普通に課税されます. 3 割は,それとは別の研究遂行経費として受け取っているものとして, 非課税になります. この両者が, たまたま一緒にまとめて振り込まれているだけ,という仕組みになっています.
実際に 3 割を経費として使ったかどうかは, 年度末に提出する書類で申告します. ちなみに,わりと大雑把な項目ごとに経費を書かされるだけで, 領収書等の提出が求められるわけではないです. (税務調査とかで引っかかって後から要求されたりとかはあるのだろうか? 聞いたことないけど)
さて,申告した経費が 3 割に満たかった場合はどうなるのでしょう? 書類上と,そして実質上の辻褄合わせが次の年度になされます.
書類上は,3 割に達しなかった差額分が改めて給与収入として支払われます. そしてそこから所得税が源泉徴収されます. しかし実質上は, その新しい給与収入は前年度に既に払われたものなので, 改めてお金をもらうことはなくて, 逆に,源泉徴収分の税金を学振の口座に振り込むように通知が来ます.
ややこしいですね.実例を見ましょう. 例えば平成14年4月から平成15年3月までの 1 年間が採用期間だったとします. 研究奨励金が月額 X 円だったとしましょう. 平成14年の源泉徴収票では, 4月〜12月の 9 ヵ月分の (9 * 0.7 * X) 円が給与収入となっていて, それから源泉徴収額が引かれています (税金は 1月〜12月で区切られる点に注意). 同様に 1月〜3月の (3 * 0.7 * X) 円は平成15年の給与収入になります.
さて,平成14年4月から平成15年3月までの間に, 実際に研究遂行経費として使用したのが 1 割, つまり (12 * 0.1 * X) 円だったとしましょう. この場合,3 割との差額である 2 割,つまり (12 * 0.2 * X) 円は, 本来は給与収入であるべきものでした. その辻褄を合わせるため, 平成15年の賞与として (12 * 0.2 * X) 円が支払われ, そこから所得税 10%,すなわち (0.1 * 12 * 0.2 * X) 円が源泉徴収され 「たとして扱われ」ます. 実際には, その (0.1 * 12 * 0.2 * X) 円を学振の口座に振り込むよう要求されます (振り込み後に,源泉徴収票が来ます). 10% は取られ過ぎなわけですが, もちろん平成15年の年末調整や確定申告で取り戻せます.
これは,採用期間が 1 年間だった場合の例です. この例でいう平成15年度も採用が継続している場合は, 差額分は学振の口座に振り込むのではなく, 平成15年度のどこかで自動的に天引きされるのかも知れません. 経験者の方,ご存知でしたら教えて下さい.
した方がお得だと思います. メリットは,前述したように税金が減る点です. デメリットは,強いて言えば提出する書類が増える点ですが, 微々たるものです.
また,これはもしかしたら私の勘違いかも知れませんが, 一応書いときます.気になる人は確認して下さい. もしあなたが学振 DC に採用された 1 年目であって, かつその採用年に他の収入が全くない場合, 3 割を必要経費とすると, 勤労学生控除の対象になってさらに節税になる気がします.
(平成16年度の研究奨励金の月額 200,000 で計算すると, 4〜12月の 9 ヵ月で 200,000 * 0.7 * 9 = 1,260,000 が給与収入. これに対する給与所得控除は 650,000 なので, 所得は 1,260,000 - 650,000 = 610,000 となる. 勤労学生控除の対象となる条件は,合計所得金額が 65 万円以内であること. 控除額は 27 万円)
違います.
一般に,原稿料や謝金といった雑所得に分類される収入の場合, 収入金額から, その収入を得るために必要となった必要経費を引いたものが所得となり, その所得に対して(いろいろな控除がなされた上で)所得税が計算されます.
一方,給与収入の場合, 収入金額から給与所得控除が差し引かれたものが所得となり, その所得に対して(いろいろな控除がなされた上で)所得税が計算されます. (給与所得控除の額は収入金額によって決まります)
学振の研究遂行経費は,この給与収入金額自体を減らすものです. 研究奨励金から研究遂行経費が引かれたものが収入金額になり, そこから給与所得控除が引かれて所得になります.
つまり,
これはかなり上級者の質問ですね.(← 何の上級者だ)
ある支出があったとして, それを雑所得に対する必要経費としてカウントするのと, 研究遂行経費としてカウントするのとでは, どちらが節税になるのか,という話です.
最初に 「アルバイト禁止の学振研究員に,どうして雑所得収入があるんだ?」 という点を議論しておきましょう.
まず,4月から採用の場合,1〜3月の仕事の収入ってのがあります. ただしこの場合は期間がきっちり分かれているので, その支出が発生した日によってどっちの経費にするかは自明かも知れません. それでも,例えば何か研究上必要なものを買おうと思ったときに, 3 月末に買うか,4 月に入るまで待つかという選択の基準にはなるかも知れません:-) (本当は使用率で按分すべきなのかも…)
それから, 例えばアルバイトの中でも TA や RA は認められることがあるようで, 同様に,研究内容と密接に関わっているものであれば, 雑所得収入の発生するアルバイト(原稿料とか,講演料とか?) も認められる場合があるかも知れません.
別の例として,研究内容に対して賞をもらってしまって, その賞金が入って来る場合があります. この場合は,その必要経費はまさに研究遂行経費と区別できないわけです. (金額で按分しろとか言われるのかも…)
さて本題に戻って, ある支出をどちらの経費にカウントするのがお得かという話ですが, 結論から言うと,雑所得収入の必要経費の方がお得です.
雑所得収入の必要経費の場合, その必要経費が収入から減算されて雑所得となります.
学振の研究遂行経費の場合, まずその経費の分だけ「収入が」減算されます. 効果としてはここまでは同じです. さらにそこから給与所得控除を差し引いて所得が計算されるわけですが, 給与所得控除は給与収入金額に対して単調非減少になる ように決められています. ってことは, 研究遂行経費が増えると, 収入が減算されている分だけ給与所得控除が少なくなり, その分だけ課税対象額が増えることになります.
まあ微々たる差ですけどね. こんなこと考えている暇があったら本業の研究した方がいいです(ぉ.