ちょっと前に話題になったメール破産ですが,実際に破産宣告している人は決して多くないとはいえ,実際のところ破産寸前な人って意外と多いのではないかと思います.
そういう人にメールを送ると,返って来たり返って来なかったりしてとても困るわけなのですが,実は メールを送る側 にも原因の一端はあると考えます.つまり,超多忙な人から返事をもらいやすいメールと,忘れ去られやすいメールの傾向ってものがあります.
というわけで,メール破産寸前な人から返事をもらいやすくするためのコツとして,思いつくものをいくつか挙げてみます.実はいくつか挙げるまでもなくて,一言でいうと 「処理しやすいメールにする」 こと.処理しにくいメールは後回しになって,そして一度後回しになると,それは次から次にやってくる新着メールに押し流されるので,次にいつ読んでもらえるかは保証の限りでなくなります.つまり「後回し」にされることをいかに避けるかが重要です.
とにかく一番大事なのは,返信が必要だということがメールを開いた瞬間に伝わるようにすることです.最悪なのは,前半でだーっと報告事項とかを述べて,その後に長い引用があって,最後にアクションを求める文がある場合です.肝心な部分を読み飛ばされる恐れがあります.
だいたい忙しい人の場合,さてメールを読むか,というときにはメールボックスに数十通とか,たぶん人によってはそれ以上のメールがたまっています.それらを取り込んでから,ざっと目を通してどれを精読するべきかを ほぼ直感的に 選別します.ここでふるい落されるとアウトです.
なので,メールのできるだけ冒頭で「以下の各事項についてX月Y日までご回答をお願いします」のように,まずはざっくりと用件を述べてから各論に入る方が危険度は下がります.
何かアクションを起こすことが望まれているのはわかるのだけど,具体的に何をして欲しいのかさっぱりわからない,あるいはわかるまでに努力を要するメールというのがときどき来ます.具体例としては,結城浩さんのこの記事なんかの例が典型的.
複数の要素が含まれるのであればちゃんと分解して,例えば箇条書きにする.それぞれを返事が必要なものとそうでないものに明確に分類する.Yes/No の返事が必要なのであればそうだとはっきりわかる文面にするのがよいし,そうでなくても,何を回答すればよいのかが明確になるようにする.アンケートのシートを作るつもりで書くとよいかも知れません.
以上は単にメールの書き方の問題ですが,それとは別に「本質的に難しい」ために簡単には答えられないメールの場合もあります.そういう場合は,「pending」という回答が可能なように配慮しておくのも一つの手です. pending という回答をもらったところで何かが解決するわけではないのですが,返事のないまま放置されるよりは次の手の打ちようがあるってもんです.
ファイルを添付するのが悪いと言っているのではありません.もちろん添付ファイルが必要な場合もあるでしょう.問題は「添付ファイルを開かないと用件がわからない」メールです.典型例は,「標記の件につきまして,添付の通り通知がありましたのでよろしくお願い致します」みたいなのしか本文に書いてないメールです.
「添付ファイルなんてダブルクリック一発で開けるじゃん」てのはおっしゃる通りなのですが,数十通のメールに一気に目を通す場合,そのワンアクションの必要性が「後回し」への分かれ道になります.
用件が本文に書いてあっても,普通はやっぱり添付ファイルを見ないと返信はできないので,添付ファイルができるだけ見やすくなっていることも重要です.例えば,複数ファイルが zip でまとめられていたりするのは,一見親切なようですが,たいていのメールソフトウェアでは,開くのにワンアクション (あるいはそれ以上) 余計に必要になるため,しきいが上がります (ケースバイケースなので,zip でまとめるのが常に悪いという主張ではないです.念のため).さらにそれが暗号化されていて「パスワードは別メールでお送りします」とかだともう後回し確定です.嗚呼,個人情報保護法.
特にえらい人や忙しそうな人が相手の場合,はっきりと〆切を切るのが失礼な気がしてしまって,つい「お時間のあるときにでもお目通し下さい」とか心にも思ってないことを書きがちです.それは本来送り手の配慮なわけですが,メール破産予備軍の人にとっては,実はこれは迷惑以外の何物でもありません.
だいたいが,メール破産するような人にとって「お時間のあるとき」なんて永遠に来ないんですよ.だからそんなメールは存在しないのと同じです.だったら最初から送って来るな,という結論に至ります.
不躾に見えても「X月Y日までにご返信をお願いします」などとずばっと書く方が相手もありがたいはずです.もちろん書く場所はメールのできるだけ最初の方です.
この辺は意見の分かれるところだと思うのですが,私見を書きます (まあこの記事全部が私見ですが).
ひと昔前であれば,メールの全文引用というのはよくないマナーだとされていました.主に,ネットワーク帯域やディスク資源が乏しかったのが理由だと認識しています.
今や状況は大きく変わりました.Office ファイルがガンガン添付されて来るこのご時世,過去のメール本文がすべて全文引用されたくらいで,データ容量的には屁でもありません.
であれば,過去の経緯を思い出すために古いメールを探さなくてはならないよりも,そのメールの中に過去のメールが引用されている方がずっと便利だと私は考えます.
ただし,引用のしかたには注意が必要です.全文引用をだーっとした上で,その途中途中に自分の発言をはさみこむのはあまりお奨めしません.埋没して読み落とされる恐れがあるからです.私の場合,まず新たに書いた本文をメール冒頭にまとめて配置し,署名をつけて,その後ろに全文引用をします.引用部と交互に読んでもらいたい場合は,必要最小限の引用部だけ改めてコピーして,本文の中に入れます.結果的に,全文引用が悪とされた時代の,すなわち引用を最小限にとどめたメールが前半に来て,その末尾 (署名の後ろ) に全文引用がくっついた形になります.「署名以降は読み飛ばされてもよい」と考えることにしています.
「いや,全文引用はすべきでない.過去のメールは In-Reply-To や References から容易にたどれるはずだ,たどれないのであれば,そんなメールソフトウェアを使っている奴が悪い」「Gmail に全部つっこんどいて検索すれば済むじゃん」と主張するのは自由ですが,その主張が受け入れられる保証はどこにもありません.
暴言を吐きますが,そもそもがメール破産しそうな人ってのはメールを適切に処理する技術に長けていないから,処理容量オーバに至るわけです.メールを読むスタイルを頑固に変えない人が多そうな気がします.根拠は無いけどメール破産で有名な Knuth なんてその典型な気がするぞ (←大偏見).ちなみに私なんかもまさにそういうタイプで,添付ファイルを処理するには Windows 上のメールソフトウェアを使うのが便利だとわかっているにも関わらず,いまだに FreeBSD 上の Emacs で Mew 使って,なんかゴニョゴニョと小ざかしい工夫 [2005-11-28-1] をしてたりするわけで.
複数の人にメールを送るときに,起こすべきアクションははっきりと書いてあるのに,誰が起こすべきなのかが明示されていない場合があります.この場合,受取人同士が互いに遠慮したり,あるいは自分のことではないと都合よく解釈したりして,結局誰からも返事がなかったりします.
アクションを起こすべき人を指定できるのであれば最初からそうするのがベストですし,そうでない場合も「どなたか○○して下さいませんか」ではなくて,全員に「○○して頂くことが可能かどうかご回答下さい」として状況を把握した上で改めて依頼する方が,結局はスムーズに行くことが多いです.
「返信を受け取るコツ」という趣旨からはちょっと外れますが,返信しなくて済むのであればそのようにするのがベストな場合もあります.つまり,「○○としたいと思いますが問題ありますでしょうか?」はやめて「○○としたいと思います.問題がありましたらご連絡下さい」にする.もっと万全を期すなら「X月Y日までにお返事を頂けない場合はご承認頂いたこととして進めます」とかですね.
この場合注意しなくてはならないのは,何らかの事故でメールが届かなかったとか,メールを見落とされていたとかのケースと,承認のケースが区別できないことです.なので最悪の場合に自分自身で責任が取れないような案件では使わない方が身のためです.
結局は,相手の身になって考えましょうというごく当たり前のことを並べているだけです.これらを考慮してメールを書くのはそれなりに骨が折れますが,その後の仕事の進み方を考えると,その分のコストを払う価値はあるかなと思います.
あ,私自身が実践できているかというとその限りではありません.あと,ここに出て来る「メール破産しそうな人」は決して私のことではありません.違います.違うってば.
最終更新時間: 2009-01-04 15:31